※この記事は、自分が複数の医療機関や訪問看護ステーションで働いた経験をもとにしています。個人や勤務先が特定されないよう、状況の一部を再構成しています。
「訪問看護に向いている人の特徴」として、観察力、判断力、コミュニケーション力、時間管理能力などが挙げられることがあります。
もちろん、どれも仕事をするうえで役立つ力です。
ただ、自分は訪問看護に向いている人を、性格や能力だけで限定する必要はないと思っています。
地域の訪問看護を盛り上げたい人もいれば、病棟勤務が合わずに転職してくる人もいます。
夜勤は難しくても、日勤や時短勤務なら働けるという人もいます。
物静かな人、よく話す人、勢いのある人、慎重な人など、実際に働いている看護師のタイプもさまざまです。
その人ごとに得意な利用者や得意なケアが違うため、
この能力があるから訪問看護師になれる
この性格だから訪問看護には向かない
と簡単に決められるものではありません。
この記事では、訪問看護に必要とされる力、病棟経験の必要性、一人で訪問する不安について、自分の経験から紹介します。
訪問看護師の実際の働き方は、「訪問看護師の1日の流れ|直行直帰・訪問件数・記録の実際を紹介」にまとめています。
訪問看護は、特別な人だけの仕事ではない
自分は、訪問看護への門戸はかなり広いと思っています。
訪問看護師には、
- 観察力
- 判断力
- コミュニケーション力
- 時間管理
- 運転
- 記録力
- 応用力
- 相談する力
- 利用者や家族との距離感
などが必要だといわれます。
ただ、これらを最初からすべて備えている人は、ほとんどいません。
実際の訪問を経験し、分からないことを調べ、先輩に相談する中で、少しずつ身についていくものです。
働き始める段階で大切なのは、特別な才能よりも、
朝起きて仕事へ向かい、無理をしすぎず、仕事を終えて無事に帰る
という基本的なことだと思います。
体調を整えて継続して働くことも、看護師に必要な力の一つです。
看護師ごとに得意な利用者が違う
訪問看護では、いろいろなタイプの看護師が働いています。
静かで穏やかな人もいれば、会話の勢いが強い人もいます。
丁寧に話を聞くのが得意な人、医療処置が得意な人、家族との調整が得意な人など、それぞれ強みが違います。
利用者側にも相性があります。
たくさん会話したい利用者もいれば、必要なことだけ簡潔に話してほしい利用者もいます。
明るく元気な看護師を好む人もいれば、落ち着いた看護師の方が安心する人もいます。
すべての利用者とうまく関われる看護師である必要はありません。
自分の得意な関わり方を理解し、難しいケースではほかのスタッフへ相談できればよいと思います。
一人での訪問は、数を経験することで慣れていく
訪問看護では、基本的に一人で利用者宅へ向かいます。
自分も最初は不安がありました。
以前の職場で人間関係につまずき、人と関わること自体が怖くなっていた時期もあります。
そのため、一人で利用者宅へ入り、きちんと会話や看護ができるのか心配でした。
ただ、実際に訪問を重ねると、自分なりの話し方や立ち振る舞いで関係を築けることが分かりました。
もちろん、何の準備もなく一人で訪問すればよいという意味ではありません。
- 接遇や礼節の研修
- 訪問看護の基礎研修
- 同行訪問
- 利用者ごとの注意事項の確認
- 困った時の相談先
が用意されていることが前提です。
一人で訪問する不安は、頭の中で考えるだけでは完全には消えません。
同行訪問から始め、少しずつ担当を増やすことで慣れていくものだと思います。
判断に迷ったら、まず情報を整理する
訪問先で判断に迷った時に、何でも一人で解決する必要はありません。
自分はまず、利用者の情報を整理します。
そのうえで、管理者やほかの看護師へ相談します。
報告する際には、SBARの形を意識するとまとめやすくなります。
S:Situation/現在の状況
今、何が問題になっているのかを短く伝えます。
○○さんが転倒して頭部を打ったため、報告します。
B:Background/背景
これまでの経過や、関連する情報を伝えます。
転倒前の様子、基礎疾患、服薬、バイタルサインの変化など。
A:Assessment/自分の評価
自分が現在の状態をどう考えているかを伝えます。
意識は清明ですが、転倒後に嘔吐が1回あります。
R:Recommendation/提案・確認したいこと
相手に何を求めているのか、自分はどうするべきと考えているかを伝えます。
医師への報告が必要だと考えます。受診の調整をお願いします。
この形で管理者へ報告すると、次に何をすればよいか整理しやすくなります。
その後、医師や関係者へ報告する場合にも、同じ情報を利用できます。
重要なのは、完璧な答えを出してから相談することではありません。
自分はこのように考えているが、判断に迷っている
と伝えられることが大切です。
病棟経験がなくても働けるが、教育体制は必要
病棟経験があれば、訪問看護で役立つ場面は多くあります。
さまざまな疾患、急変対応、医療処置、医師への報告などを経験していれば、一人で訪問する際の判断材料が増えるからです。
ただし、病棟経験がなければ訪問看護師になれないとは思いません。
経験の浅い看護師でも、
- 十分な同行訪問
- 段階的な独り立ち
- いつでも相談できる体制
- 外部研修への参加
- 定期的な振り返り
がある職場なら、少しずつ経験を積むことができます。
反対に、教育する余裕のない小規模事業所へ経験の浅い看護師が入ると、その事業所の限られた方法だけを覚えてしまう可能性があります。
間違った判断や偏った考え方が修正されないまま定着すると、本人だけでなく利用者にも影響します。
経験の浅い人ほど、
新人を採用した実績があるか
同行訪問は何回程度あるか
独り立ちは誰が判断するのか
訪問中にいつでも相談できるか
を確認した方がよいと思います。
訪問看護ステーションの教育体制や業務範囲については、「訪問看護ステーションの選び方|転職前の見学で確認したい8項目」で紹介しています。
経験年数だけでは適性を判断できない
看護師経験が長ければ、必ず訪問看護でもうまく働けるとは限りません。
臨床経験が比較的短くても、分からないことを調べ、礼節を守り、丁寧に相談できる人はいます。
反対に、長い経験があっても、自分の考えを押し通し、周囲の意見を聞かない人もいます。
訪問看護では、一人で訪問する時間が多いからこそ、
- 自分の判断を振り返る
- 分からないことを認める
- 他職種の意見を聞く
- 必要な時に相談する
姿勢が重要です。
経験年数は一つの目安になりますが、それだけで安心とはいえません。
負担を感じやすいタイプはいる
訪問看護の門戸は広いと思いますが、負担を感じやすい人はいます。
たとえば、
- 急な予定変更が苦手
- 一人で行動することに強い不安がある
- 運転が大きなストレスになる
- 利用者や家族との距離を取りにくい
- 相談せずに抱え込んでしまう
- 病院のように整った環境でないと動きにくい
人です。
ただし、当てはまるから訪問看護ができないわけではありません。
予定変更が苦手なら、管理者が予定を調整する職場を選ぶ。
運転が不安なら、訪問エリアが狭い職場や、自転車訪問の職場を探す。
一人での判断が不安なら、同行期間が長く、相談しやすい職場を選ぶ。
本人の努力だけでなく、職場の体制によって負担は大きく変わります。
利用者宅は病院のように整っていない
利用者宅には、それぞれの暮らしがあります。
家族が訪問中ずっと見守っている家もあれば、利用者と二人きりになる家もあります。
防犯や見守りのためにカメラが設置されていることもあります。
部屋の配置や生活習慣もさまざまです。
以前、部屋にシャンデリアがあり、毎日きれいな服へ着替えて過ごしている利用者がいました。
その人にとって、身なりを整えることは生活の楽しみであり、大切な習慣でした。
訪問看護では、医療的に正しいことだけを押し付けるのではなく、その人がどのように暮らしてきたのかを見る必要があります。
基本は「郷に入っては郷に従う」
利用者宅では、その家の生活習慣やルールを尊重します。
看護師にとって効率のよい配置へ勝手に物を動かしたり、病院と同じ方法を押し付けたりはしません。
もちろん、安全性や衛生面で問題がある場合は、改善方法を一緒に考えます。
ただし、
医療ではこれが正しいので、こうしてください
と一方的に決めるのではなく、
今の暮らしを大きく変えずに、安全に続ける方法はないか
を考えます。
訪問看護で必要なのは、正解を当てはめる力だけでなく、本人や家族と一緒に現実的な方法を考える力だと思います。
衛生環境が苦手な人は負担になる場合がある
すべての利用者宅が、病院のように整理・清掃されているわけではありません。
におい、ほこり、虫、ペット、喫煙などがある家もあります。
非常にまれですが、冷蔵庫の中に虫がいたり、室内にムカデやネズミが出たりする環境に出会う可能性もあります。
そうした環境を看護師の判断だけで排除することはできません。
衛生環境への苦手意識が非常に強い人は、負担を感じるかもしれません。
ただし、我慢して一人で対応し続ける必要もありません。
訪問の継続が難しい場合や、安全上の問題がある場合は、管理者へ相談し、
- 訪問するスタッフを調整する
- 必要な支援機関へ相談する
- 防護用品を準備する
- 家族と環境改善を話し合う
などの対応を検討します。
大勢の中で働くことが苦手な人にも合いやすい
病棟では、多くのスタッフと同じ場所で働きます。
周囲の動きや人間関係に常に気を配る必要があり、同調圧力や集団の雰囲気に疲れる人もいます。
訪問看護では、利用者宅へ一人で向かい、訪問中は一人の利用者と向き合います。
常に大勢のスタッフの中にいるわけではないため、集団で働くことに居心地の悪さを感じる人には合いやすいと思います。
ただし、人と関わらない仕事ではありません。
利用者や家族だけでなく、
- 医師
- ケアマネジャー
- ヘルパー
- 薬剤師
- リハビリ職
- 福祉用具事業者
など、多くの関係者と連携します。
大勢の中で同時に働くことと、必要な相手と個別に連携することは別です。
自分は、集団の中で常に周囲へ気を配る働き方より、必要な相手と一対一で関係を築く方が力を発揮しやすいと感じています。
自分が訪問看護に向いていると思う理由
これまでの働き方を振り返ると、自分が訪問看護に向いている理由はいくつかあります。
利用者の生活全体を見ることが好き
病気や処置だけでなく、
- どのように暮らしたいのか
- 何を大切にしているのか
- 家族は何に困っているのか
- 現在の環境で何ができるのか
を考えることが、自分の看護観に合っています。
一人で考えながら動ける
自分の裁量で予定を組み、目の前の状況を見ながら対応する働き方が合っています。
誰かの指示を待つだけではなく、自分で情報を集め、必要なケアを考えられます。
必要な時には相談できる
一人で訪問しますが、何でも一人で決めようとはしていません。
情報を整理し、自分の考えを持ったうえで、管理者や医師へ相談できます。
一人で動けることと、一人で抱え込むことを分けて考えられる点は、訪問看護に合っていると思います。
環境に合わせて工夫できる
利用者宅には、病院と同じ設備や物品がありません。
その家にある物や生活動線を見て、無理なく続けられる方法を考えることができます。
決まった方法を押し付けるより、その人に合わせて調整する方が得意です。
集団より、一対一で力を発揮しやすい
自分は、大勢の中で周囲の機嫌や人間関係へ気を配り続けるより、一人の利用者と向き合う方が落ち着いて働けます。
病棟で十分に発揮できなかった力が、環境を変えたことで使えるようになりました。
経験を振り返り、働き方を修正できる
過去には、頼まれた仕事を抱え込みすぎたり、善意で無償の仕事まで引き受けたりしたことがあります。
現在は、自分が行う仕事、権限、責任、対価を分けて考えられるようになりました。
訪問看護では裁量がある分、自分の限界を理解し、必要な線引きをする力も重要です。
こうした部分を含めて、自分は訪問看護という働き方と相性がよいと感じています。
夏の訪問は今でも少し苦手
自分が訪問看護で苦手なのは、夏の暑さです。
真夏の車内は非常に暑く、ドアを開けた瞬間に熱気が入ってきます。
利用者宅へ到着するまでに汗が噴き出し、
汗をかいたまま訪問して、不快な思いをさせていないだろうか
と心配になることがあります。
汗拭きシート、着替え、飲み物などを準備し、訪問前にできるだけ身だしなみを整えるようにしています。
訪問看護師の夏冬の持ち物については、「訪問看護師の持ち物は何が必要?毎日使うもの・貸与品・便利だったものを紹介」にまとめています。
環境が変われば、発揮できる力も変わる
訪問看護を始める前は、自分がきちんと働けるのか不安でした。
病棟勤務ではつらい経験が多く、自分には看護師として働く力がないのではないかと感じた時期もありました。
しかし、訪問看護を始めてみると、環境が変われば発揮できる力も大きく変わると分かりました。
利用者と一対一で向き合い、自分で考えながら必要なケアを行う働き方が、自分には合っていました。
今でも、
利用者と二人きりの時に何か起きたらどうしよう
という不安が完全になくなったわけではありません。
ただ、不安の正体の多くは、知識や経験の不足だと考えています。
分からないことを勉強し、経験を積み、相談できる人を増やすことで、不安とは少しずつ向き合えるようになりました。
不安がなくなったというより、不安があっても必要な行動を取れるようになったのだと思います。
まとめ|向き不向きより、職場と教育体制を見る
訪問看護に向いている人を、一つの性格や能力だけで決めることはできません。
観察力や判断力、コミュニケーション力は大切ですが、仕事を続ける中で身につけていくこともできます。
自分が特に伝えたいのは、次のことです。
何でも一人で解決できる必要はない。
分からない時に相談できることが大切。
病棟勤務が合わなかった人にも、訪問看護という選択肢がある。
経験年数だけでなく、考えて行動し、振り返る姿勢が大切。
向き不向き以上に、教育体制と職場選びが重要。
病棟でうまく働けなかったからといって、看護師に向いていないとは限りません。
働く場所や人間関係、求められる役割が変わることで、自分の強みを発揮できる場合があります。
最初から完璧な訪問看護師である必要はありません。
自分に合った教育体制と相談環境のある職場を選び、少しずつ経験を重ねればよいと思います。

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